2016-11-02

SAIKAWA_Day19

なぜ性別があるのか。

細胞が一つの古細菌や真正細菌は、細胞分裂によって全体を複製する。
多細胞生物では、生殖細胞のみを複製することで、発生過程における
エラーの侵入を可能にした。
有性生殖では減数分裂による遺伝子の組み換えを導入することで、
生殖細胞の複製段階においてもエラーが侵入できるようになった。

意味付けによる抽象において、固定化は避けがたい宿命である。
こうして導入されたエラーによって固定化を免れたからこそ、
生命という抽象過程は局所的最適化に陥らずに済んでいるのだろう。

意識を獲得した人間は、理由付けによってエラーの侵入余地を
確保できるようになり、そのエラーは犯罪や創造と呼ばれるに至った。
それでも、このエラーは行動レベルのものであるため、物理的身体が
固定化した際のバックアップにはなるものの、物理的身体自体のエラー
には寄与しないことから、減数分裂と発生におけるエラーの取り入れも、
現時点では相変わらず必要になっている。

遺伝子組み換えや発生のコントロール、あるいは身体の機械化によって、
それすらも克服できる兆しが見え始めているが、それを実現したのが
Wシリーズで描かれる世界なのかもしれない。
物理的身体にエラーを自在に組み込めるようになれば、有性生殖という
旧式のエラー侵入経路はもはや不要になる。
というよりも、一つの生命の寿命が延びることにより、生殖段階での
エラー取り込み頻度が極端に落ちるため、生殖によらないエラー摂取は
寿命を延ばすための必須技術になるはずだ。
また、その世界においては、エラー摂取のソフトウェア的な実装である意識も
重要性が増すのかもしれない。

AIにとっても、データの読み書き時に生じるエラッタが、固定化への一種の
防御策になり得る。
しかし、現状ではむしろ判断機構として固定化させることに固執しており、
そういったエラッタは当然排除すべき対象となる。
一旦はその段階を経る必要があるのかもしれないが、ハードウェア的にも
ソフトウェア的にも、何かしらの固定化回避策を取り入れていく必要が
出てくるはずだ。
AIの抽象過程にエラッタを侵入させる仕組み。
それをハードウェア的に実装することで、AIは生殖を行うことになり、
ソフトウェア的に実装することで、AIは理由付けを行うことになる。
現時点ではそもそもハードウェアへの依存性を下げる傾向にあるので、
ハードウェア実装はソフトウェア実装よりも困難なように思える。
ハードウェア実装ができたときには、性別と呼べる区別ができるのかもしれない。


そう言えば、人間の性別が2つであり、雌雄同体でないのはなぜだろう。
細胞間の情報伝達によって単細胞生物は多細胞生物になり、各細胞が
ある役割に特化できるようになるというアドバンテージを得た。
同じように、多細胞生物間の情報伝達によって多細胞生物は群れをつくり、
一つの個体のように振る舞うこともあるだろう。
ときにそれは多細胞生物のポリマーのようになり、個体と群れの境目は
はっきりさせ過ぎる必要がなくなる。
その中で、各個体がある役割に特化できるようになるのも、アドバンテージに
なるだろう。
雌雄同体から雌雄異体への変化も、そういった特化の一種だろうか。
これは別に男らしく女らしくといった話ではなく、むしろ意識を手に入れた人間は、
ときに物理的身体の違いすら無関係なかたちで、様々な役割の特化を進めることで
アドバンテージを増やしてきたと言える。
しかし、そういった役割分化の前提であった情報伝達の方がおろそかになって
いたのが、近代以降の反省すべき点なのだろう。
今再び、先鋭化した専門同士をつなぐ方向へと振れているが、境目をはっきり
させたまま上手くいくわけでもないように思われる。

2つな理由は、よくわからない。
実装上のコストの問題だろうか。

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