2017-12-19

宇宙際Teichmüller理論

宇宙際Teichmüller理論を使ったABC予想に関する論文が査読を通ったというニュースを見て、星裕一郎「宇宙際Teichmüller理論入門」を読んでみた。

相当噛み砕かれたていねいな解説を読んで連想したのは、異なる世界観間での意思疎通についてだ。

東洋哲学と西洋哲学、仏教とキリスト教、父権制と母権制、日本神話とギリシャ神話、日本語と英語、理系と文系、あるいは自分と他人。それぞれがもっている判断基準(環構造)が必ずしも完全には一致しない場合には、コミュニケーション(リンク)の際に、解釈、翻案、翻訳、言語化といった、不定性の導入による剛性低下が生じることになるが、翻訳や言語化(不定性の管理)が適切であれば、エタール的部分(シニフィアン?、象徴界?)の間の関連付けのみからFrobenius的部分(シニフィエ?、現実界?)の間の関連付けを導くことができる。

つまり、他人がどのような情報を受け取って、それをどのように抽象しているのかを知ることができなくても、「so-ra-ga-a-o-i-ne」という聴覚情報を介して、ちょっとした誤差の範囲内で、空の青さを見ている感じを伝えることができる、というような。いわゆるクオリアというのは、エタール的部分として符号化することができないFrobenius的部分を、あえてエタール的部分であるかのように表現したものだと言えるだろうか。人間がみな同じようなクオリアを共有しているという仮定は、エタール的出力とFrobenius的対象の間のKummer同型に通ずるものがある。

復元が上手くいくあたりが面白いと思うのだが、細かいところはあまり理解できていない。「数でなく関数の特殊値として扱う」とか「Hodge劇場」のあたりは充足理由律と関係があるだろうか。あるいは充足理由律が多輻的アルゴリズムに相当するのだろうか。

全く的外れなことを書いている可能性も高いが、どうだろう。望月新一氏、星裕一郎氏、数学者、一般人というのもまた、異なる世界観をもつ人間同士であるから、宇宙際Teichmüller理論の「理解」を共有できるかということ自体が、この理論の対象になっているようにも思う。

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