2019-05-13

協力と裏切りの生命進化史

市橋伯一「協力と裏切りの生命進化史」を読んだ。

反射律、対称律、推移律によって特徴付けられる同値関係が成立している状態を「協力」と呼べば、この同値関係の解消のうち、特に対称律が破れることによるものを「裏切り」と呼べるだろう。

分子、細菌、真核細胞、多細胞生物のように、複数だったものが一つの単位として振る舞うようになるのは、同値関係によってある集合を商集合へと写像する除算過程の一種である。それは確かに「協力」の賜物であるが、ときに「裏切り」が発生し、別の同値関係が可能になることで、同値関係の妥当性を検証しながら環境に適応する協力体制を整えることができる。

一つの同値関係に固執すれば壊死する一方で、同値関係の解消に徹すれば瓦解する。ある同値関係を維持しようとする「協力」と、その同値関係を解消しようとする「裏切り」の綱引きが、絶妙にバランスするところにだけ、生命を見出し得るのではないかと思う。

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