2018-08-21

先史学者プラトン

メアリー・セットガスト「先史学者プラトン」を読んだ。

考古学、人類学、言語学、神話学、宗教学、気候学、地球科学、…。高度に専門分化した枝葉の先を伸ばす研究が存在する一方で、それぞれの枝の伸び方を俯瞰して大きな流れを見出そうとする本書のような研究も存在する。それはちょうど、伝言ゲームの答えを探るのに、一つの列でより前の人の情報を聞き出すのか、複数の列の人から情報をかき集めるのか、という二種類のアプローチがあるのと同じである。

一つひとつの伝言ゲームの経路からは誤り訂正の不完全な情報しか復元できなくても、様々な媒体を介した複数の経路の情報を突き合わせることで、紀元前六千年紀中頃に、ザラスシュトラの誕生を契機としたアポロン化が生じたという、それらしいストーリィが組み立てられる。アポロン化とは、混沌としたディオニュソス的なものを、一つの判断基準に基づいて整理整頓する過程であり、メアリー・セットガストによる推論自体もまた、一つのアポロン化である。

結局、歴史というストーリィを組み立てるには、各分野の伝言ゲームは唯一の同じ答えを共有しているという信念の下に、オッカムの剃刀を振り回すしかないのかもしれない。この系統樹思考に基づいて組み立てられた歴史にできることがあるとすれば、「史実」というものがあったとして、その一面を表すことくらいに留まるように思うが、それでもこういう理由付けをし続けられるところに、人間の面白さを感じる。

そういえば、口承だけに比べると、文字化によって伝言ゲームの経路数は大きく増加したように思うが、電子化はどのような影響をもたらすだろうか。プロトコルの伝承が途絶えた場合、そもそもそこに情報がエンコードされていることに、後世の人間は気付けるのだろうか。

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